毎日の食事は、美味しくて体にいいものをとりたいですよね。健康に良いとされている機能性表示食品なら、安心して選ぶことができそうです。特に商品を試したことのある人の体験談は大いに参考にしたいところ。だからこそ体験談は信頼に足るものでなくてはなりません。
機能性表示食品の広告にとって体験談はどうあるべきか、発信する側の事業者と受け取る側の消費者双方が留意すべき点をまとめました。
そもそも機能性表示食品とは?
私たちの身の回りには無数の食品がありますが、その中で健康への働きや体への効果を表示できるものは一部だけです。これらは保健機能食品と呼ばれ、現在は「特定保健用食品」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3種類があります。
それぞれの違いを見ていきましょう。まず、国が審査をして健康増進に効果があると認めたものを特定保健用食品、通称トクホといいます。栄養機能食品は、すでに国が指定した栄養成分を基準量含んでおり、それについて決められた表示をすれば審査も届け出も不要なものです。
これに対して機能性表示食品は、国の審査は受けませんが、企業が自ら科学的な根拠を示して消費者庁にこれを届け出る必要があり、企業の責任で機能性を表示するものです。
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機能性表示食品に浮かび上がった問題点
機能性表示食品は2015年から運用が開始され市場も順調に拡大しましたが、一方で問題点も浮上してきました。特にクローズアップされたのが安全性への疑いです。機能性表示食品は企業が自ら科学的根拠を示して消費者庁に届け出ることで機能性の表示を可能にするものですが、その科学的根拠自体への疑義を指摘される事例が相次ぎました。
さらに、国の審査が必要な特定保健用食品では安全性が確認できないと指摘された同じ成分が、機能性表示食品として申請した際には受理されて市場に出回るといったケースなどもあり、制度そのものへの信頼性が揺らぐ事態にもなりました。
このほか、機能性表示食品の広告表示についてもその基準の不明確さが指摘されています。行きすぎた表現が違反に当たるとして当局から指導を受ける事業者が続出する中で、「どのような表現が違反に当たるのか、はっきり示してほしい」といった要望も聞かれ、改めて制度の再整備を求める声が上がりました。
機能性表示食品の事後チェックとは?
機能性表示食品の制度をめぐる問題の解決に向け、消費者庁は2020年に「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針」を策定します。これは、機能性表示食品の届け出・受理がなされた商品について事後チェックすることで、科学的根拠や広告表示の妥当性をはかろうとするものです。
チェックには一般社団法人健康食品産業協議会はじめ業界5団体から成る第三者機関が当たり、業界自らが示した指針に沿って自己点検しながら基準の明確化をはかることになりました。
機能性表示食品の体験談、広告に果たす役割は?
事後チェックに示される指針の中で、広告に関する取り扱いは大きな割合を占めています。それは広告の内容が、届出された機能性の範囲を超えてしまうと、景品表示法や健康増進法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)など数多くの法令に抵触してしまう恐れがあるためです。
一方で事業者は少しでも多く自社製品のメリットをアピールしたいので、法令違反ぎりぎりの表現を使ってくるケースがあります。それを防ぐためにも広告に関しては詳細な規則が数多く示されているわけです。機能性表示食品の広告表現の一つに、使用した人の体験談がありますが、指針では体験談を消費者の商品選択に大きな影響を及ぼす可能性があるものだとして、その効果の強さに言及しています。
また、影響力が強い表現であるだけに、その扱いには特に注意が求められてもいます。事業者は、体験談の内容が届出した成分の機能性を逸脱して、商品全体のイメージとして捉えられてしまわないよう、断定的な表現を避ける等の点に留意する必要があり、消費者は断定表現があれば効果を大げさにうたっているのではないかと疑ってみる必要があります。
機能性表示食品の体験談、問題になるのは?
体験談において、断定的な表現を避けなくてはならない理由は、景品表示法に抵触する恐れがあるからです。景品表示法とは、「消費者を誤認させるような不当な広告をすること」と「消費者の判断を誤らせるような過大な景品の提供をすること」を禁止する法律を言いますが、機能性表示食品では前者の不当な広告表示が問題になりがちです。
例えば「誰でも効果を感じられる」「1カ月で3キロ痩せられる」などの断定は、たとえ事実の体験であっても、すべての人に当てはまるわけではありません。「これで医者いらず」という断定も治療が必要ではないことを暗示し、消費者の誤認を招くものとして景品表示法に触れる恐れがあるのです。
この他、実際には体験者がいないにもかかわらず内容をねつ造したり、効果を感じられない体験談を切り捨てて商品に有利な体験談だけを取り上げたりする場合も景品表示法に触れるケースがあります。アンケート調査による体験談に多い手法ですが、そのような誤解を招かないためにも、体験者の人数や属性、その中で効果が得られた人の割合、得られなかった人の割合などを明示することが必要となります。
景品表示法だけではない、体験談の問題は?
機能性表示食品の体験談が抵触する恐れがある法令は、景品表示法だけではありません。薬機法や健康増進法にも触れないよう注意することが必要になります。薬機法では食品が医薬的効能をうたうことはできませんし、健康増進法では食品の虚偽誇大広告が禁じられています。
すなわち食品の成分がガンなどの病気を治したり、その成分によって毎日3キロ体重が落ちたなど、人間の生理上明らかに不可能な効果を発揮したりする表現が体験談の中にあれば、それは違反広告だということです。体験談の中には打ち消し表示というものがあります。
「個人の感想であり、実感を保証するものではありません」などという表現で、効果を限定して断定を避けようとする手法ですが、これについて消費者庁は、効果や性能を標榜する広告において意味をなさないものであるという見解を示しています。
事業者は体験談がかなり厳しい目で見られていると認識するべきでしょう。
機能性表示食品の体験談は、事業者も消費者もシビアな態度で接するべき
機能性表示食品は、健康志向の消費者にとって欠かせない食の選択肢です。だからこそ食品を試したことのある人の体験談は重要な判断材料となります。事業者側にとっても体験談は効果的な広告手法ですが、利益を追求するあまり、そこに虚偽の効能や大げさな表現を盛り込めば、法令に触れ市場の信頼を失いかねません。
消費者には体験談を正しく見極める眼力が求められる一方、事業者には広告への誠意ある取り組みが望まれます。